眠くても数学

数学について思ったことや近況を書きます。

畳み込んで花粉症の未来を予想する:畳み込み積分(1)

スギは樹齢30年くらいからより花粉を飛ばすらしい

 みなさんおはようございます。このブログ初めての記事になりますが、今回は畳み込み積分について書いてみようと思います。

 それはそれとして(?)、この春の花粉症もやはり去年の5倍とかで大変悲惨な飛散量になっているらしい*1

 毎年どこかのボジョレー某のような爆発的な増え方で現代人を花粉まみれにしているわけですが、そもそもスギの本数自体はそんなに変わってないように見えるのに、なんで花粉だけ毎回毎回増えているのか?

 そこでいろいろと調べてみた結果、次のようなサイトにたどり着きました。

通常スギは、20~30年生で開花し始めます。そして30年生を超える頃になるとたくさん花粉を発生するようになります。以後、花粉を飛ばし続けます。日本で初めてスギ花粉症が報告されたのは1964年ですが、1970年代中頃から急増し現在に至ります。これは戦後1950年代中頃から1970年代にかけて進められた「拡大造林」で植えられたスギがすべて樹齢30年を超えたことになります。こうして見ると、年々花粉の量が増えるのも当然です。たとえば多摩地区ではスギ林のなんと8割が樹齢30年以上になっているそうです。

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Fig.1 花粉の飛散量と樹齢の関係
watashinomori.jp

 ほんまに?

 樹齢30年は、計算上1980~2000年にあたるので既にヤバいと言えます。こんなん地獄かな?

 拡大造林計画なる単語が出てきたので林野庁のサイト*2の解説を読んでみると、「戦後の復興に用いる薪炭材や建築材として伐採地に植林する計画で、成長が速いスギやヒノキなど針葉樹を中心に1950年代から1970年代にかけて植えられた」とあります。ここでスギやヒノキを植えまくったせいで40年後の日本人がこうも苦しめられることになるとは思いもよらなかったでしょうねぇ……(責めるに責められない苦い顔)。

 スギ自体の樹齢は100~200年のオーダーのようで、つまりこれから続々と大量散布可能なスギが増えていくという。やっぱ地獄かな?

 とりあえずどれくらいヤバいことになるのかを(理系らしく)見積もってみようというのがこの記事の目的になります。

まずはデータだ!

 林野庁には割と豊富な情報があるので使ってみましょう。まずは年ごとの増え方を見ていきましょう。平成25年森林林業白書の資料I-24によれば、5年ごとのデータを得られます。間が欲しいので、単純に線型補完してみましょう。

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Fig.2 5年ごと造林面積。なんか右のほうで図が被って申し訳ない。
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Fig.3 1年ごとの植林面積(線型補完)。ところで橙色のバーの隙間が緑色に見えるのは疲れ目だからだろうか。

 かなりざっくりとした近似ですがお気になさらず。

 そして樹齢と1本あたり花粉飛散量の関係ですが、それらしいデータがなかったので次のように考えてみます*3。まず樹齢を経るごとに飛散量が増えていくわけですが、どこかで飽和するだろう(もしくは一定の値に近づいていくだろう)という仮定のもと、シグモイド関数

\displaystyle{
\varsigma_{0.5}(x)=\frac{1+\tanh(0.5x/2)}{2}
}

でMax飛散量に漸近すると考えましょう。

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Fig.4 シグモイド関数(中心をx=40までずらしてx=30くらいから立ち上がるようにゲインを0.5に調整しています)。

 さて。今年2019年での花粉飛散量がこれで求められます。とはいっても飛散量に使う単位を決められないので、今存在する1本のスギが直ちに最大まで飛散した場合を1cpとしましょう(スギ花粉→Cedar Pollen)。言い換えればスギが成長しきった考えうる限り最悪のケースといえるでしょう(空気が黄色そう)。

また1haあたり2000本くらい植えるそうなので*4、きっかり2000本/haとしましょう。

では計算だ!

 まず1950年の30万6207ha= 6.12 \times 109 本から考えましょう。2019年までの69年間ですくすく育ったスギは、

{ \displaystyle
\varsigma_{0.5}(69)=\frac{1+\tanh(0.5 \times 69/2)}{2}
=0.9999995
}

を飛散させるので6.12\times109[cp]となり、ほぼMax飛散量となります。こういうスギが今俺たちを苦しめているんだ…。

 同じように1951年の32万5218ha=6.50\times109本も

\displaystyle{
\varsigma_{0.5}(68)=\frac{1+\tanh(0.5\times 68/2)}{2}=0.9999991
}

なので6.50\times109[cp]となります。増えてるやん…。

 以上の工程を1950年から2010年まで繰り返します(EXCELくんが)。式にしてみましょう。数学っぽくn年での飛散量を \pi (n) にして、n年での植林面積を  \tau(n)としました。まずn年に植林されたスギが2019年までの2019-n年間にすくすく育って今年飛散させる花粉量は

\displaystyle{
\varsigma_{0.5}(2019-n)\ ;\ \text{2019-nの形は覚えておいてください。}
}

であり、よって1950年から今までの合計飛散量 \pi(2019)としては、

\displaystyle
\pi(2019)=\sum_{n=1950}^{2018} \tau(n) \times \varsigma_{0.5}(2019-n)\ ;\ \text{(Eq.1)}

となります。これを計算するとこのようになります。

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Fig.5 年代別花粉飛散量。横軸はnでふってある。

 もはやこれ飽和してるのでは(これ以上酷くならないとも言える)?

 なお最初に引用したサイトによれば初めてスギ花粉症が報告されたのが1964年とあるので、その時点と比べて2倍程度も飛散していることになります。そりゃ国民病になりますわな。日本中のスギがなんかリンゴの木とかなれば食べれるしいいんじゃないですかね(諦め)。

数式に着目しよう

 花粉の話ばっかりしてきましたけど、数学の話も少ししておきます。自分の感覚からして畳み込み(積分)の式(Eq.2)って、二つの関数の掛け算を引数で和をとってるだけなので有難みが分かりづらい印象があります。

\displaystyle{
(f*g)(x)=\int d\mu\ f(\mu) \times g(x-\mu)\ ;\ \text{(Eq.2)}
}

 しかもなぜか片方の関数だけ何かから引いています。今回の花粉飛散量の式(Eq.1)と比べると、次のようなことが分かります。

  1. 和をとるのは全ての時間からの寄与を集めるため(今回は各年に植えられた木が今年飛散させる花粉量を足しました)。
  2. 積をとるのは寄与を計算するため(今回は植えられた木の本数\times樹齢ごとの花粉飛散量ですね)。
  3. 引数の時点で引いてるのは、現在までのタイムラグを逆算するため(今回は植えられてから何年たったか、つまり樹齢を出すため)。

 なんだかんだ意味はあってやっていることなんだなぁ。

反省

 とりあえず、という感じでネット上にある情報から適当に(良くも悪くも)計算を推し進めてみました。結局は畳み込みの身近な具体例を出したかったので細かいことには目をつぶっています。特に樹齢と花粉飛散量の関係はまあシグモイドになるか知らないしゲイン0.5でやってみたけど、スギの生殖可能期間については分かっていないことも多いらしく、新たな情報が得られたらキチッとした計算をしてみたいものです(EXCELくんが)。

 また何かコメントがありましたら追記していこうと思います。大きな間違いとかないといいなあ…(くしゃみをして鼻をかみつつ)。

*1:これにはいろいろとカラクリがあるらしい。本来どうなっているのかはよくわかりませんが。

*2:http://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/22hakusyo_h/all/h23.html

*3:もし詳しいデータがあれば教えてください。

*4:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BA%BA%E5%B7%A5%E6%9E%97